東京都の陽性率は20%を超え、川崎市では40%を超えているということで、それに関する記事が出ていますが、疑問点をまとめてみます。
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新型コロナウイルスの検査を受けた人のうち、結果が陽性だった人の割合を示す「陽性率」が各地で上昇している。東京都では22%に達し、検査能力の乏しかった昨春を除き、過去最高を更新中だ。陽性率の上昇は一般に、増える感染者数に対し、検査が追いついていないことが原因とされる。だが、都内などではまだ検査に余力があるという。では、この陽性率の上昇は何が原因なのか。
都の担当者「検査を絞っているということはない」
都の計画では、都内約3800の医療機関で1日最大4万件以上検査できる。これとは別に、都内の新型コロナの検査機関の一つ、都健康安全研究センターで1日あたり最大約1千件を受けられるが、9日の実績は218件だ。
都の感染症対策部の担当者は「検査を絞っているということはない。検査を担う医療機関を受診した患者がこの数だったということだ」と説明する。
検査を担う臨床衛生検査技師が所属する日本臨床衛生検査技師会の横地常広副会長も「いまは国内の検査処理能力には問題ない。医者が必要と判断すれば検査できるようになっているはずだ」と指摘する。
「検査できる件数」というのは自己申告であり、「それだけ検体があれば」という条件付きではないかと思います。
実際には診察をして検体を採取して、という作業があり、発熱外来では数をこなせないことは想像に難くなく、例えば1日100件の検査ができる医療機関でも外来で受け付けられるのは50人、ということも十分にあるでしょう。
仮に「絞っている」という認識がなかったとしても、そういう状況は起こり得ると思います。
実際に、発熱外来はパンクしているところもあるようです。
また、「入院患者のPCR検査が保険適応外になった」とか「濃厚接触者でも無症状者にはPCR検査ができない状況」とかいう声もあります。
今月に入ってから突然入院患者のPCR検査が保険適応外になった。
発熱などの症状がないと健康保険が適応にならなくなったのだ。院内で協議し、やはりPCR検査を受けていない患者を入院させるのはリスクが高い(院内感染の可能性、急変時の対応) ので、今後は自費でPCR検査を受けてもらうことになった。— 青嵐透 (@lunaticflyair) August 6, 2021
保育園での感染確認の件で、市に濃厚接触者以外への幅広い検査を求めたら、
保健所から
「濃厚接触者でも無症状者にはPCR検査ができない状況」
なので難しいと言われ
市は「濃厚接触者には確実に検査するように求めた」とのこと通常の検査すらできてないなら、
千葉県の実際の感染者数はもっと多い— 荒川さくら 成田市議会議員 日本共産党 (@naritaarakawa) August 12, 2021
ツイッターなのでどこまで本当か、という部分もありますが、それを取材するのが記者なのでは?
「都の感染症対策部の担当者」の言い分を一方的に垂れ流すのが仕事なのですか?
※追記
そもそも「症状があるか濃厚接触者」のみを対象に公費で検査を行っている時点で絞っていると言えるのですが、今回はそこは置いといて、症状がある人に限っても全てを検査できているわけではないという現実を知り、調べるべきではないか、ということです。
※追記終わり
検査数が伸びない「からくり」?
ではなぜ、検査数が伸びないのか。そこには「からくり」がある。
これは前述の通り、「検査処理能力」以外の部分が詰まっているからと思われるのですが、そこには目を向けないのですね。
日々公表されている検査件数は、症状がある人や感染者と濃厚接触した人が公費負担で受けられる「行政検査」を対象としたものだ。一方で、症状がなく、感染の可能性が低い人が「陰性証明」のために自費で受ける検査は基本的に含まれていない。自費検査で医師の診断により陽性となった場合、医師が感染症法に基づき保健所に届け出ることになっている。だが、検査件数については届け出が義務化されていない。
東京都が公表している陽性率は、「(1)東京都健康安全研究センター、(2)PCRセンター(地域外来・検査センター)、(3)医療機関での保険適用検査実績により算出」と説明されています。記事にも「9日時点の検査人数は、直近7日間平均で約1万2千」とありますが、最近は7日間平均で1万2千から1万4千ぐらいでしょうか。
そして、日々発表されている陽性者数と、陽性率の計算に使われている陽性者数、検査人数を並べたのが以下の表です(8月1日以降)。
日付 | 陽性者数(報告日別) | 陽性率の計算に使われる陽性者数 | 陽性率の計算に使われる検査人数 |
---|---|---|---|
8/1 | 3058 | 1275 | 5893 |
8/2 | 2195 | 3090 | 14791 |
8/3 | 3709 | 3778 | 17592 |
8/4 | 4166 | 3458 | 16263 |
8/5 | 5042 | 3430 | 15440 |
8/6 | 4515 | 3518 | 16975 |
8/7 | 4566 | 2693 | 12290 |
8/8 | 4066 | 1491 | 5775 |
8/9 | 2884 | 1237 | 5178 |
8/10 | 2612 | 3519 | 15704 |
8/11 | 4200 | 3824 | 15715 |
8/12 | 4989 | 3119 | 12094 |
これを7日間平均をして、陽性率も計算すると以下のようになります。
日付 | 陽性者数(報告日別) | 陽性率の計算に使われる陽性者数 | 陽性率の計算に使われる検査人数 | 陽性率 |
---|---|---|---|---|
8/7 | 3893 | 3034.6 | 14177.7 | 21.4 |
8/8 | 4037 | 3065.4 | 14160.9 | 21.6 |
8/9 | 4135.4 | 2800.7 | 12787.6 | 21.9 |
8/10 | 3978.7 | 2763.7 | 12517.9 | 22.1 |
8/11 | 3983.6 | 2816 | 12439.6 | 22.6 |
8/12 | 3976 | 2771.6 | 11961.6 | 23.2 |
これを見ると、検査人数は1万2千ほどで、陽性者数は「報告日別」と「陽性率の計算に使われるもの」で千人ほど違うのがわかります、
記事には「自費検査で医師の診断により陽性となった場合、医師が感染症法に基づき保健所に届け出ることになっている。だが、検査件数については届け出が義務化されていない。」とあり、その後に陽性率の話をすることであたかも「自費検査は陽性率の分子(陽性者数)には入るが分母(検査人数)には入らない」かのような印象を受けますが、これはミスリードを誘うものと思われます。
もし「自費検査は陽性率の分子(陽性者数)には入るが分母(検査人数)には入らない」のであれば「保険適用検査実績により算出」という説明とは異なるわけで正しい数字を出すよう要求すべきですし、「陽性率の分子(陽性者数)」と報告日別の陽性者数が大幅に食い違うことも説明を求めるべきと思います。
※追記
この記事(の一部)を書いた天野氏は「東京都は行政検査の値のみで計算」と理解していたようです。「わかりづらくてすみません」とも書いていますが、だったら直せばいいのに、としか思いません。一度出した記事は修正などできないのでしょうか?
※追記終わり
自費検査の件数がもし全て届け出られていて、陽性率の計算に加えられれば、陽性率は大幅に下がることになりそうだ。
「自費検査」には「病院で行う自費検査」と「病院以外で行う自費検査」があり、「病院以外で行う自費検査」で陽性になっても保健所に届けられることはないので、それを陽性率の計算に加えてしまうのは問題があると思うのですが。そうではなく、「病院で行う自費検査」の件数を全て届けて、その分の陽性者数も陽性率の計算に加えるとして、それで陽性率が大幅に下がると思っているんですかね? そんな根拠はなさそうに思えるのですが。
まとめ
せっかく取材をして記事を書くのなら、相手の言い分を鵜呑みにするのではなく、もうちょっと考えて、深く突っ込んだ記事を書けばいいのに、と思います。
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