直接税と間接税について考えてみる

以前消費税は直接税なのか?という記事を書きましたが、今回は直接税と間接税について考えてみたいと思います。

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そもそも直接税、間接税とは?

[税のしくみ] 税の種類と分類 | 税の学習コーナー|国税庁

税を納める人と負担する人が同じ税金を「直接税」といい、税を納める人と負担する人が異なるものを「間接税」といいます。たとえば、消費税は、消費者が負担し、事業者が納めるため、間接税に分類されます。

と国税庁のサイトで説明していますが、子ども向けのページだからか平易な言葉を使っており、別の言葉で説明しているサイトを探すと、「税を納める人」を「納税義務者」、「負担する人」を「担税者」あるいは「実質負担者」などとしているものが多いです。
一方、「消費税は直接税である」と主張するサイトでは「税を納める人」を「納付義務者」(おそらく特別徴収における特別徴収義務者のこと)、「負担する人」を「納税義務者」と解釈し、「納付義務者」と「納税義務者」が違う場合(「税金を預かる」パターン)は間接税であると説明しているところもありますが、いくつかの税金で「納税義務者」「担税者」「特別徴収義務者」がそれぞれ誰であるかを見ていきたいと思います。

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「納税義務者」「担税者」「特別徴収義務者」の一覧

税金 納税義務者 担税者 特別徴収義務者(特別徴収の場合)
住民税(普通徴収) 一定以上の所得がある人(特別徴収とならない場合) 一定以上の所得がある人本人
住民税(特別徴収) 給与所得者 給与所得者本人 雇い主(事業者)
ゴルフ場利用税 利用者 利用者 ゴルフ場の経営者
入湯税 利用者 利用者 鉱泉浴場の経営者
消費税 事業者 消費者
酒税 酒類の製造者または輸入者 消費者
たばこ税 製造たばこの製造者、特定販売業者、卸売販売業者など 消費者

国税庁の説明では「納税義務者」と「担税者」が違う場合に間接税となるはずですが、その説明が書かれたページではゴルフ場利用税や入湯税は間接税に分類されており、間違っていると思います。
そして、「納付義務者」と「納税義務者」が違う(=「納付義務者が税金を預かる」)場合は間接税である(そうでない場合は直接税)という解釈をするなら、住民税は「普通徴収の場合は直接税、特別徴収の場合は間接税」ということになり、このような定義はおかしいと思います。

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「担税者」が誰か考える

前では僕の考えで書きましたが、「確かに消費者は消費税相当額を払ってはいるがそれを『負担している』とは言わないだろ」などと言われそうなので、ここでは「担税者」が誰かを考えてみます。

住民税の場合

「考えるまでもなく本人」なのですが、消費税との対比でもあるので。
諸々控除後の所得が100万円、均等割はなく税率が0%、5%、10%で考えると、納税額はそれぞれ0円、5万円、10万円となり、税率が変わると納税額が変わり、現金もしくは預貯金が納税額だけ減ります。「担税者」は本人です。

消費税の場合

「400円(税抜き)で仕入れて500円(税抜き)で販売した場合」で考えます。ここでは、消費税0%、5%、10%、仕入れは10%で販売は免税(法律に従って還付)という4つの例で見てみます。

粗利は以下の通り。

税率 0% 5% 10% 10%
(販売は免税)
仕入れ(税抜き) 400 400 400 400
仕入れ(消費税) 0 20 40 40
販売(税抜き) 500 500 500 500
販売(消費税) 0 25 50 0
粗利 100 105 110 60

納税額などは以下の通り。

税率 0% 5% 10% 10%
(販売は免税)
粗利 100 105 110 60
納税額 0 5 10 0
還付額 0 0 0 40
粗利マイナス納税額
(もしくはプラス還付額)
100 100 100 100

納税額は税率によって変わりますが、「粗利マイナス納税額」はいずれも100円で同じです。つまり、事業者は負担しておらず、消費者が負担しているということになります。
そして、販売は免税の場合でも「粗利プラス還付額」は他の「粗利マイナス納税額」と同額になります。つまり、国内で販売しようと輸出(免税)で販売しようと、「粗利プラス還付額」もしくは「粗利マイナス納税額」は同額になるようになっています。

源泉所得税と消費税で考えてみる

それでも「消費者は消費税相当額を価格の一部として払っているだけで『負担している』とは言えない。『消費税を負担しているのは消費者』と言うのであれば所得税だって『払った側が負担している』と言えるだろ」と主張する人がいるかもしれないので源泉所得税と消費税で比較しながら考えてみます。

源泉所得税の条件:単発のバイトで社会保険料、住民税などの天引きなし。税率10%。額面10000円。
支払額:10000円
源泉税額:1000円
手取り:9000円

消費税の条件:税率10%。本体価格(税抜き価格)10000円。
消費税額:1000円
支払額:11000円
消費税納税後に残る金額:10000円

このように、「税額の基となる金額」をそろえて税率も同じなら税額は同じになりますが、「税額の基となる金額」は同じでも納税後に手元に残る金額は違います。「支払額が違うんだから当然だろ」という声が聞こえてきそうですが、「源泉所得税は本来受け取る額(額面)から税金分を引かれている(金を支払う人から支払われる総額は変わらない)が、消費税は本来受け取る額(税抜き価格)に税金分を加算(転嫁)して支払われている(金を支払う人から支払われる総額が増えている)」わけです。こう見れば、源泉所得税は金を受け取る人(納税義務者)が税金を負担し(担税者)、消費税は金を支払う人(消費者≠納税義務者)が税金を負担している(担税者)ということがわかります。
こう説明しても「消費税は『転嫁』してるんだから源泉所得税だって『転嫁』すればいいだろ」と言う人はいそうな気がします。ということで、税率100%で考えてみましょう。そんなので社会は成立しませんが、思いついてしまったので。

源泉所得税の条件:単発のバイトで社会保険料、住民税などの天引きなし。税率100%。額面10000円。
支払額:10000円
源泉税額:10000円
手取り:0円

消費税の条件:税率100%。本体価格(税抜き価格)10000円。
消費税額:10000円
支払額:20000円
消費税納税後に残る金額:10000円

はい、源泉税率100%で給料の手取りはなくなってしまいました。一方、消費税100%でも、消費税納税後に残る金額は10000円で変わりません。税額は10000円で、それを負担しているのは消費者です。
まあ、100%なんてしなければ所得税の方も「手取りが同額になるように額面を増やす」ということはできますが、それは結局所得が増えた中から税金を払っているわけで、本人が負担していることになります。消費税は税額の分受け取る額が増えてそれを元に納税しますが、税抜き後の粗利に変化はなく、事業者は負担していないということになるのです。
と、ここまで説明してきましたが、所得税は実際にはいろいろ控除されるので、確定申告(会社員であれば年末調整)をすれば基本的には還付されるので実際の納税額とは違うということになります。そして、給料をもらう時点で実際の所得税額はわからないので、額がわからないものを「転嫁」するというのは無理があると思います。

以上で、「消費税の(実質的な)負担者は消費者である」ということが理解してもらえたでしょうか?

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結論

以上、まとめると、

  • 国税庁の説明では「税を納める人と負担する人が同じ税金を『直接税』といい、税を納める人と負担する人が異なるものを『間接税』といいます」となっているが、「税を納める人」は「納税義務者」のこと、「負担する人」は「担税者」のことであり、「税を納める人」を「納付義務者」、「負担する人」を「納税義務者」と解釈するのは誤りである。
  • 消費税の担税者は事業者(売る側)ではなく消費者(買う側)である。
  • 入湯税やゴルフ場利用税は「納税義務者」と「担税者」が同じなので国税庁の説明に従えば直接税。国税庁は可及的速やかにサイトの記載を修正すべき(そもそも、「納付義務者と納税義務者が違う場合が間接税」という解釈が生まれたのは「入湯税やゴルフ場利用税が間接税である」というのが出発点と思われ、入湯税やゴルフ場利用税を間接税としてしまった間違いが「消費税は直接税である」などという主張を生んだ源であるとも考えられる)。

こんなところでしょうか。

コメント

  1. 城崎裕一 より:

    「直接税・間接税」の区分けが「徴税方法」にあるのではなく、租税債務者(=納税義務者)と担税者が一致するかどうかで決まるということですね。
    確かにこれを土台とした国会質疑も行なわれていますし、この解釈が主流と見てもおかしくなさそうです。
    一般庶民の「肌感覚」では違和感を禁じ得ませんが。

    そしてこの説に則った場合、担税者はこの租税の当事者ではなく何の法的地位も持たないということです。つまり担税者が納税義務者に支払った税額相当の金銭は「税」ではなく納税義務者に支払う「対価の一部」なのです。

    「間接税」とは「他人を介して納税する税」のことではなく「担税者が支払う転嫁額は〈税〉ではなく、納税義務者が納税する時に初めて〈税〉になる税」ということですね。

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